上関原発計画の報告/上里恵子

 私が上関原発計画に深く関わるようになったきっかけが、2006年小泉先生が現地を見られて「どうしてこんな危険な所に原発を建てるのですか」と言われたことにあります。その言葉が誘い出すようにして、21年前に、既に「現地地盤は積み木細工のようで、原発を立地できるところではない。」と言われていた人があることも分かりました。島村先生の伯父に当たられる生越先生。詳しい論文を残しておられました。その論文に導かれるようにして、私は深みに入ってゆくわけですが、仲間として支えてくださるのが井上さんたち小泉先生の周りの人たちだったこと、そして、今回上関原発計画の全体像を始めて提示できたのが「山の自然学クラブ」であったことに深い因縁を感じています。

 さて、上関原発計画は瀬戸内海国立公園に立地しようとしています。この瀬戸内海は、灘と瀬戸とが交互に現れるという特徴を持っています。世界の閉鎖海域の中でこのような特徴を持つ海は他にないのです。と言うのも、フィリピン海プレートの西に向かっての沈み込みと関係があるからです。東西から圧迫を受けるこの地方は、四国沖と連動したようにして、高まりと低地が交互に繰り返しています。瀬戸といわれる島の多いところで水流が速くなり海水が上下に交じり合うことで、酸素と栄養の両方が海水に供給されます。このことが、世界の閉鎖海域の中でダントツに単位面積当たりの漁獲量を高めています。原発が計画されているのは岩国の南西40km余りの所、「瀬戸内海で最も高い生物多様性を擁する海域」と言われる所なのです。それも、敷地半分は湾を埋立てるのです。湾を埋立てることには二つの問題があります。湾が形成される所は地盤地質の弱い場所であるのに、そこに高度な管理が求められる施設ができるということ。また、浅い海は海藻が育ち魚が卵を産み稚魚の育つ所、ろ過された陸からの栄養塩を含む水を受け取る場所。生物多様性の苗床のような所を抹殺してしまうことになります。
 計画の原発は出力137.3万kw。この3倍の熱出力があり、274.6万kw分は海に捨てられる仕組みになっています。具体的に言えば、1秒間に190トンの、取水時より7度高くなった海水が海に捨てられるとことになっています。それも、微量とはいえ放射能を含んでいます。瀬戸内海は、平均深さ38mの浅い海です。潮の流れは、満干潮に伴うもののみ。事業者は「影響は軽微なもの」と報告しますが、200分の1水理模型での実験をしただけ。「瀬戸内海環境保全特別措置法」によって守られなければならない国立公園への配慮が十分とは言えない結論です。

 計画の遂行にも問題があり、当地選択理由のための調査は妥当なものではなく、適格地だから選択したのではなく、選んだから適格地とするための作文をした内容になっています。これらを通して分かったことは、地震国に世界で3番目に多い原発が設置されていった不思議な現象の理由でした。通ってはいけない門を通りやすくする仕組みがあつたのです。原発の近くで地震が起こると「想定外」という言葉が出てきます。「想定」の方が間違っていたのかも知れないと思わせられています。

美しく生態系豊かな現地



上関原発計画地:熊毛郡上関町長島田ノ浦



「瀬戸内海事典」(南々社)加藤真氏解説文より

湾を埋立てる計画



地形図:矢印に原発設置の計画。湾は地質学的に弱い所と決まっている。



計画図:敷地面積33万u 埋立面積14万u。2号炉建屋は半分が埋立地にかかる。

国立公園に計画の原発



現地は瀬戸内海国立公園。海域は指定地域である。「瀬戸内海事典」より



「瀬戸内海環境保全特別措置法」第三条。瀬戸内海は国によって守られる。

瀬戸内海の特徴

瀬戸内海は灘(深い所)と瀬戸(島の多い所)が交互に連なる。(プレート運動と関連がある) 瀬戸は流れが速く海水が上下移動する。「日本の自然」(岩波書店)より

従って、養分と酸素が撹拌され、単位面積当たりの漁獲量が多い。 湯浅一郎氏講演資料より

工業化を免れている周防灘・防予諸島

現地周防灘・防予諸島は生態系が豊かだと言われるが、スナメリ密度の調査からも分かる。生息数は現地に近い祝島・柳井だけで増えている。湯浅一郎氏講演資料より

生態系を破壊する埋立計画

湾の埋立計画図:湾深央部から250m余り、水深10mまで埋立てる。魚の産卵、稚魚の成育場所である海藻が繁茂する所は全て埋まる。自然海岸を喪失することにより、陸からの淡水の供給も断たれる。発電に必要な冷却水は北から取り入れ、南から7度高い温排水を放出する。

「中電の文書の不備」その1

中電の文書の不備:事前調査報告書で「適格地である」と言った。 原子炉建屋に当たるボーリング調査地点は 10,11,12,13のみ。埋立地に当たる湾はしていない。

ボーリング内容も、浅いボーリング、各種検査もしていないのが分かる。
これでは、原子炉建屋の設置に適・不適の判断はできなかったはず。

「中電の文書の不備」その2

中電の文書の不備:「環境影響評価書」卵・稚仔の調査地点。埋立てる湾と取水口をはずしている。肝心の場所の調査をしていない。動植物プランクトンについても同様。これらは、漁獲状況を判断したり、冷却水取り込みの影響を考える上で大切な情報となる。

結果として、取水口と湾にはこれら生き物がいないかのようになっている。

地震国に原発のひしめく日本


世界第三位の原発を持つ日本。4枚のプレートがひしめき、地震の多発国。



日本列島には55基の原発。

計画地の地震発生の確率

30年以内にM7.4の地震発生の確率40%。「最新日本の地震地図」(東京書籍)より

津波の心配も

瀬戸内海に海水が無かった1万5千年前の様子。豊後水道から計画地まで、遮る物が何もない。もし津波の場合は直進する可能性が。海水の取り込みが不可能になったり、電気系統の冠水で重大事故の心配が。図は「日本の自然」、津波の影響については藤田祐幸氏講演より

計画地の近くに岩国基地が

赤い点が原発。上関原発計画地と岩国基地の距離は40km余り。軍関係の飛行物の落下事故の場合、タービン室、コントロール室など一般建物並みの強さしか無いところがある。その破損も原発重大事故につながる。図は新聞記事に加筆。事故の心配については藤田祐幸氏講演より

日常的な熱汚染が、瀬戸内海に

瀬戸内海の断面図。平均深さは38m。海流は潮の満干のみ。瀬戸内海の海水が90%入れ替わるのに1年半かかる。周防灘に温排水が放水されて。図は「日本の自然」より。記述は「産業技術総合研究所中国センター」のパンフレットより

取水より7度高くなった海水が放水され

中電「環境影響評価書」より。原型量が実際の放水の状況を表す。流量は九頭竜川に相当し(藤田祐幸氏講演から)、流速は海底の基盤岩をえぐる。「日本の地形」(東京大学出版会)瀬戸内海の海釜の記述より

しかし、中電は1.41kuの範囲を1度あげるだけと報告する

この図は、定常状態について予測し、「影響は軽微なもの」と結論付けたものであるが、24時間後にこの状態が訪れることになっている。「発電所に係る環境影響評価の手引」(資源エネルギー庁編)による

もしものことについて

新指針の方針:ある程度の確率で地震による原発重大事故が発生する可能性を容認して設置許可を出すという論理。

原発重大事故による影響



計画地を中心とした急性死の割合

風向きが北から時計まわりで75度の場合を想定した晩発性ガン死者の発生数。 1997年の人口による。24) 25)共に京大原子炉実験所小出裕章先生シンポジウム資料より