鹿を守る妙案/大森弘一郎

 知っているつもりで前回書きましたが、専門の方から色々ご指摘を戴きました。新しい情報も入手しました。それらを参考にして、少し正確に書き直してみました。その中に私案もありますが、それがわかるように書いたつもりです。(参考:伊那谷自然友の会報134号、日本獣医生命科学大学時田昇臣先生の助言、朝日新聞2007年12月8日記事、奥多摩町河村文夫町長の講演)

 この写真は2005年4月に富士の麓の西臼塚の近くの森で写したものです。広い面積一面にシラビソの根元の皮が奇麗にかじられていました。鹿の上顎には歯が無いのだそうで、雄の鹿が角で表皮に傷をつけ、そこから皮を舌でむしって食べるのだと聞きました。それなら上まで食べても良さそうに思いますが、根元だけかじっているのはなぜでしょうか。歯が無いからでしょうか、前にお見せした写真(写真で見る自然学−7)の黒くなっていたところは前回に食べられた所ですから、ここは上部から下がって来た栄養分が溜まった所だと推定すると理屈に適っているような気がしますが、でも鹿の気持ちは解りません。鹿にとって樹皮が美味しいのか空腹過ぎたのか、多分もっと美味しい草が無いのだから後者のような気がしますが(夏に草の有る時に樹皮を食べている例も有るとは時田先生の話ですが、まず美味しい食べ物が有れば、樹皮を食べ尽くすことも無さそうです)。いずれにせよこの食害は大問題です。森にとっても鹿にとってもです。 

 今まで多くの人の多くの努力が有ったと思いますが、いまだに適性数に落ち着いた気配はありません。そもそも適性数が何頭なのか解りませんし、餌になる現地の草を増やすことは随分難しそうです、間に合わないかも知れません。 奈良や厳島のように人が餌付けしたらと鹿の専門家に話したら、ひどくしかられたことがあります。外来種の種などが糞に入って山に蒔かれる危険があるなど、野生の世界に人のものを持ち込んではいけないからです。

しかしついに鹿から山を守らねばならなくなって来たようです。写真のように剥皮されると、あとは木が枯れるのを待つことになります。下草を食べ尽くされ、木が枯れ、土壌流出し、木の根が露出し、山が壊れることになります。ちょっと草が芽生えると伸びるのを待たずにすぐ鹿に食べられてしまうので、植物の復元は難しいことになります。 昔は日本狼がいたので適正数への調整がされたと言われますが、どれほど役立ったのか解りません。いずれにせよ現状での対策が必要になるでしょう。
 一時鹿を保護して雌鹿を狩猟禁止にしたことがあったらしいのです。また可愛い動物であることから、どうしても対策が遅れてしまいます。自然保護とは保護するだけが保護ではないという典型的な例になって来ています。
 ともかく鹿は多産で、その多産のために自分だけでは餌を(山を)食い尽くして自滅しますから手を貸して上げねばならなくなっています。今回は、何が爆発の原因か不明です。人の作った山岳道路か、温暖化による少雪か、ハンターが減り高齢化したからか。それぞれの場所でこれらが関係しているでしょう。麓で狩猟して山奥に追い込んでいる可能性もあります。

 そこで自滅を防ぐ対策へのヒントをいくつか。今知ることで私なりに考えたことを書いてみます、言うだけになって何も出来ないで終わりそうですが。
 既にメスの狩猟が奨励されているようですが、雄を禁漁にする。狩猟のスポーツでは当然強い雄鹿が対象になると思いますが、雌鹿だけにして貰うのです。これはちょと鹿には残酷な提案ですが。多分狼はメスを襲ったでしょうしこれは合理的でした。私も雄の一人ですが、雄の数は増える数には影響しないのです。 これはなかなか言うのに勇気がいりますが、これで数倍は有効になると思います。これの逆の例はあります。イタチの雄だけを島に導入したら、増えないつもりが雌が交じっていて増えてしまい失敗した例です。
 それでも必要な頭数の捕獲は難しいでしょう。山中で捕獲したものは持ち出しに時間がかかったり、捕獲条件によると肉も痛んでいます。良い肉として供給し、山の幸として喜んで食べて貰うことがせめてものこととしましょう。

 そこで次の妙案です。餌の無い冬に広い檻の中に餌でおびき寄せて、無傷に大量に捕獲するというのはどうか、そう考えたら既に大鹿村の北川牧場で始められていました(伊那谷友の会報134号)。標高1700mにある41haの放牧地に30×50mの柵を作ってあり捕獲器に鹿を追い込むようです。私の提案は既に有る林道を使うことです。道の両脇に柵を張り、上と下の両端を瞬時にふさぐ構造にするのです。林道ですから柵の麓がわの口にトラックの尻を静かにつけて乗って貰い鹿牧場に連れて行くという作戦です。
 奥多摩には鹿牧場の計画も有り、森の恵み工房峰という設備も出来ていますし、奥多摩の観光案内所ではレトルトカレーになって売られています。

 鹿の冬の行動が良く解っていないようです。越冬地はどこかと言うことですが、樹木の葉が落ちている時期なら、セスナと赤外線ビデオで調べられそうです。冬はセスナも3人乗って、高く3000m以上飛べます。
日本レーザーのサーモグラフィーのカメラでは500m離れて充分鹿の体温を赤く見ることが出来る計算になります。小型カイトプレーンも使えそうです。決めたコースを自動で20分間飛んで、写して来てくれる優れものですから。
 鹿の保護が上手に行われることを願い、それに役立つことが我々にも出来ないかかなと思っているところです。